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【「こだわりが強すぎる」は武器になる ~博士の就活体験記~】

2025.07.30

キャリア支援チーム 博士・ポスドク担当 です。
今回のコラム、読み応えのある「涙と汗のコラム」になっております。ぜひぜひ、修士・博士問わず読んでいただきたいです!!

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博士課程修了後のキャリアパスは、一人ひとり全く異なります。

大学や公的研究機関へ進み、自らの好奇心を原動力に研究を続ける人。

民間企業で、大学で培った専門性やスキルを武器に、新たな価値を創造する人。

研究の「目利き力」を活かし、省庁や投資ファンドで社会課題の解決に挑む人。

あるいは、自ら起業する道を選ぶ人もいるでしょう。

 

これほど無限に広がる選択肢の中から、自分だけの道を見つけるのは簡単なことではありません。

私自身も、長い時間をかけて悩み、行動し、ようやく一つの答えに辿り着きました。

そのプロセスは、大きく分けて4つのステップに整理できると考えています。

 

  1. 「自己分析」:自分の譲れないものは何か、人生で何を大切にしたいのかを言語化する。
  2. 「キャリアを探す」:自分の価値観とマッチするキャリアパスを見つけ出す。
  3. 「経験を積む」:そのキャリアに必要なスキルを磨き、他の誰にも負けない「武器」を手に入れる。
  4. 「伝え切る」:選考の場で、自分の能力・経験、そしてキャリアへの熱意を相手の心に届ける。

 

このコラムでは、上記4つの観点から、つい先日就活を終えたばかりの博士後期課程3年である筆者のリアルな体験記をお届けします。修士時代から続いた長い就活の道のりですが、これから就活に挑む修士学生の皆さんには「こんな失敗もあるのか」という反面教師として、博士学生の皆さんには「こんな戦い方もあるのか」という一つのモデルケースとして、参考にしていただけたら嬉しいです。


  1. すべては「こだわり」から始まった。修士での失敗と博士進学の決意

私には昔から「世界中の人々を健康にしたい」という漠然とした、しかし強い思いがありました。

健康へのアプローチは様々です。新しい食品、医薬品、モニタリング技術、それらを活用したサービス開発、さらには技術を育てる投資や科学政策まで。

その中で私は、「日常的」かつ「安価」に入手できる『食品』こそが、最も多くの人々の健康に貢献できる手段だと考えました。さらに、今ある知見を応用するだけでなく、新しい知見を生み出す「基礎研究」に携わりたい。そう考える中で、大きな可能性を秘めた「腸内細菌」というテーマに出会い、私はその研究ができる研究室の扉を叩きました。

この「腸内細菌」へのこだわりが、良くも悪くも私の就活の「軸」となっていきます。

修士時代の就活では、腸内細菌の研究ができる食品メーカーや医薬品メーカーを受けましたが、大手ばかりを狙ったこともあり、結果は惨敗。書類や面接で次々とお祈りメールを受け取りました。

 

フィードバックは無いため明確な敗因は分かりませんが、今思えば「腸内細菌」へのこだわりが強すぎて、「幅広い研究に従事してほしい」と考える企業とはマッチしなかったのかもしれません。ただ、腸内細菌研究を社是に掲げる第一志望のメーカーにも書類で落ちているので、単純に研究者として魅力的に映らなかった、という可能性も大いにあります。

 

こだわりを一旦横に置くことで内定を貰えた企業もありました。しかし、どうしても心が躍らなかった。「人生は一度きりだ。学生のうちくらい、自分の『好き』を貫いてもいいじゃないか」。友人や家族に相談する中でそう考えるようになり、自分にしかできない研究テーマを新たに立ち上げ、博士課程へ進むことを決意しました。

 

  1. 「こだわり」を活かせる場所を探す

就活から解放された博士1年の秋、私は再び自分のキャリアについて考え始めました。給与条件は一旦置いておき、「腸内細菌」「基礎研究」「食品」という3つのキーワードだけは絶対に譲れない。

このこだわりを軸にすると、進路は自ずと3つに絞られました。

  1. 大学・研究所の博士研究員(ポスドク)から、常勤ポストを目指すアカデミアの道
  2. 最先端の研究開発と社会実装の両方に携われる、腸内細菌ベンチャーの研究職
  3. 修士時代のリベンジとして、大手食品・医薬品メーカーの研究職

 

  1. 「武器」を磨き、想いを「伝え切る」

ここからは、3つのキャリアパスそれぞれに対し、私がどのように「経験を積み(武器を磨き)」、どのように「伝え切った(アピールした)」のかをお話しします。

 

キャリアプランA:アカデミア(ポスドク)への道

ポスドクは裁量が大きく、自分の研究テーマを追求しやすいキャリアです。しかし、ポストを得るためには「目に見える実績」が不可欠です。

博士1年の冬、興味のある研究室を訪問した際に「学振PD(※)などで研究費が確保できていないと、採用は難しい」という現実を知りました。(※日本学術振興会特別研究員PD。採択率10%台の狭き門)

この時点でアカデミアの厳しさを知れたのは大きな収穫でした。そこから私は、論文執筆と並行して「研究費の獲得実績」を作ることに注力しました。 民間財団などの研究助成に応募を重ね、幸運にも1件採択。これは後に、企業へのアピール材料としても活きることになります。一方で、国立研究開発法人に関しては博士3年の春に受けて、志望する研究グループでの面接までは進んだものの論文実績の不足がネックとなり採用には至りませんでした。

 

キャリアプランB:腸内細菌ベンチャーへの道

ベンチャー企業は、大手以上に「企業理念とのマッチング」や「熱意」を重視してくれる傾向があります。私の「腸内細菌」へのこだわりは、ここでは強みになるはずだと考えました。

博士採用に積極的な企業が集まる合同説明会で出会った一社と縁があり、オンラインのインターンシップに参加。大学では経験できなかったデータ解析(バイオインフォマティクス)のスキルを学びながら、社員の方々と議論を交わす中で、自分のやりたいことがより明確になっていきました。自分の名前と顔を早くから覚えてもらい、良好な関係を築くことができ、選考をスムーズに進める土台を作れたと思います。

 

※インターンシップの詳細はこちらの記事で詳しく書いています。
体験記【メタジェン】(野村佳祐):ベンチャー企業のキャリアパスを開拓するには?主体的であれ!

 

キャリアプランC:大手メーカーへの道

博士2年の春から、修士時代に苦杯をなめた大手メーカーへの挑戦を再開しました。エントリーシートの志望動機は私の根幹なので修士時代から大きくは変えていません。生成AIに少し添削してもらったくらいです。

 

しかし、アピールする「武器」は全く違うものになっていました。

  • 研究概要: 博士で始めた腸内細菌の研究を、応用視点を強く意識して書き直しました。文系の人事担当者にも伝わるよう、専門用語を避け、平易な言葉で「この研究が未来にどう役立つか」を語ることを心掛けました。
  • 自己PR: JST-SPRING採択、学会賞、研究助成金といった客観的な実績を根拠に「腸内細菌分野での専門性の高さ」をアピール。さらに、ベンチャーでのインターン経験を元に「専門外のスキルも貪欲に学ぶ意欲」を示すことで、専門性一辺倒ではないことを伝えました。

 

しかし、道は平坦ではありませんでした。

  • 大手医薬品メーカーA社(博2/6月): 書類落ち。やはり私の「食」へのこだわりが、医薬品のフィールドとは少しズレていたのかもしれません。
  • 大手食品メーカーB社(博2/秋・冬): 2度応募し、2度とも1次面接落ち。面接で研究の応用的側面を深掘りされましたが、私の研究は基礎のさらに基盤を扱うものであり、短期的な応用を語るには解像度が低く、うまく答えられませんでした。驚いたのは、2度の面接で一度も「志望動機」を聞かれなかったこと。 私にとって働く「動機」は生きる「軸」そのものですが、企業によってはそれよりも短期的なスキルや能力を重視するのだと学びました。
  • 食品メーカーC社: 書類落ち。この企業は「おいしさ」と「機能性」の両立を謳っています。機能性への熱意を語りすぎたのかもしれない…と反省しました。「この会社のヨーグルトが大好きで毎日食べています!」という純粋なファンとしての想い(事実です)をもっと伝えれば良かったかもしれません。

 

正直、この時点で企業就活については半ば心が折れかけていました。

そんな博士2年の3月。「これが最後だ」という思いで、修士時代に書類で落ちた第一志望の食品メーカーD社に応募しました。

すると、今度はあっさりと書類選考を通過。その後の面接も、驚くほどスムーズに進みました。1次、2次、最終と、面接官の方々は私の「腸内細菌研究に懸ける想い」と「目標達成のために一途に行動してきたプロセス」に、真剣に耳を傾けてくれました。

 

最終面接では、二つの工夫をしました。

一つは、「履歴書の自作」です。市販のフォーマットでは私の想いを伝えきれないと感じ、研究概要や業績、自己PRを盛り込めるオリジナル様式を作成。学振の申請書のように、伝えたい部分が瞬時に伝わるよう、太字や下線でデザインしました。

 

もう一つは、「本音を伝えること」です。

「もし御社にご縁がなければ、私はアカデミアで研究を続けます」、その上で「基礎研究を大切にしながら社会実装まで繋げるために御社で」と、D社でなければならない理由を研究に対する情熱とともに語りました。

結果は内々定をいただきましたが、明確な理由は分かりません。修士の頃は「弱み」だと思っていた私の強烈なこだわりが、博士課程での行動と実績によって「誰にも負けない強み」へと変わり、同じく腸内細菌にこだわるD社に評価していただけたのだと信じています。


最後に:これから就活に挑むあなたへ

長くなりましたが、最後に一つだけ伝えたいことがあります。

それは、「こだわりも、立派な武器になる」ということです。

就活ではよく、「こだわりは捨てろ、柔軟性を持て」と言われます。確かにそれも一つの正解です。その方が、マッチングの機会は広がるでしょう。

しかし、似たような専門性、似たような志望動機を持つライバルたちの中で、どうやって自分を差別化しますか?どうやって「あなたじゃなきゃダメなんだ」と人事に思わせますか?

そんな時、あなたの「譲れないこだわり」こそが、強力な武器になるかもしれません。なぜそれにこだわるのか、そのために何をしてきたのか。あなたの「こだわり」から生まれる「熱意」と「行動力」、そして「あなただけの物語」を、自信を持って語ってください。

 

自分自身と深く向き合い、目標を持って行動し続ければ、必ず道は拓けるはずです。

この記事を読んだ皆さんの未来が、少しでも明るく、素敵なものになることを心から祈っています。

 

文責 生命農学学位プログラム博士後期課程3年 野村佳祐

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野村さんに記事を書いていただくのはこれが最後になりました。博論に専念されるそうです。
「のむらくん!」長い間、キャリア支援チームにご尽力いただきありがとうございました。

 

博論に着手されている皆様。就活を頑張ってる皆様。
博士・ポスドク担当は、いつでも皆様を応援しております!